
現代の製造・現場環境では、品質・生産性の要求レベルが年々上昇している。
ミスが許されず、失敗コストが高く、属人的な判断が減っている中で「気を利かせろ」「見て覚えろ」という旧来の指導は成立しにくい。
本記事では、現場育成が時代に合わなくなっている理由と、今求められる指導スタイルを解説する。
【続編】「気を利かせろ」「見て覚えろ」が通用しない“今の現場”の理由
前回の記事では、昔ながらの「気を利かせろ」「見て覚えろ」という指導がいかに難しいかを書いた。
ただ、あの記事を書いた後にふと思ったのは、そもそも今の現場は気を利かせて覚えるための余裕そのものが、ほとんど残っていないのではないか?ということだ。
つまり、前回の問題は「人の問題」ではなく、もっと根本的に環境が成立条件を失っている可能性がある。
◆ 失敗コストが昔より重すぎる時代
最近の現場は、昔と比べて格段に「失敗に厳しい」。
理由はシンプルで、品質と生産性の要求レベルが跳ね上がったからだ。
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不良は即クレーム
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数分の遅れが生産ロスに直結
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トレーサビリティや記録が必須
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作業者の判断より“標準”が優先
これらにより、一人の失敗が現場全体のリスクになる構造が出来上がっている。
昔は“ちょっとしたミス”なら飲み込めた。
今は“ちょっとのミス”がデータに残り、是正書や報告書につながる。
これで「失敗しながら覚えろ」は無理がある。
◆「見て覚えろ」は“ミスを吸収できた時代”の教え
旧来の見て覚える文化は、
失敗できる環境があったからこそ成立していた学び方だ。
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顧客の要求が今ほど細かくなかった
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不良の数も今より許容されていた
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ベテランにも新人にも“余裕”があった
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判断を誤ってもリスクが低かった
つまり、新人が自分で動き、自分で失敗して、自分で軌道修正できた。
しかし現在は、
失敗する前に「それ違う」と止められる
そして判断ミスが許されない
こんな環境では、見て覚えること自体が物理的に不可能だ。
◆「気を利かせろ」は高度な能力であり、新人には荷が重い
気を利かせるというのは高度なスキルだ。
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状況を観察し
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先を読み
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工程を理解し
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周囲の動きを把握し
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リスクを見積もり
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最適解を瞬時に選ぶ
これらは本来、5〜10年選手がやっとできる能力だ。
新人に求めるのは、酷と言っていい。
さらに、気を利かせた結果ミスが起きれば、
「あいつが勝手に、やったんや!」
売られるのだ。
◆ 新人が悪いのではなく、環境が“そうさせている”
続編として一番伝えたいのはこれだ。
🔵 新人が気が利かないのではない。気を利かせられない構造になっている。
🔵 見て覚えられないのではない。覚える余裕がなくなっている。
これは新人の能力の問題ではなく、 1980〜2000年代の現場文化が、2020年代の現場構造と噛み合っていないだけだ。
◆ 今必要なのは、「気を利かせられる現場設計」
旧来の教え方が通用しないなら、育て方をアップデートすべきだ。
① 判断基準を明確にする
「ここまでは自分で判断OK」
「ここからは必ず相談」
この線引きがあるだけで新人の安心感が段違い。
② 手順の「理由」まで説明する
理由を知らないと再現性が出ない。
「なぜこの段取りなのか」を伝えることで判断力が育つ。
③ 失敗を「個人責任」にしない
構造的な問題を個人のせいにすると現場が萎縮する。
安全文化も品質文化も根付かない。
④ 観察のポイントを共有する
「何を見て」「どこに注目すべきか」を教えるだけで理解のスピードが大幅に変わる。
◆ まとめ:気を利かせろ問題は“時代とのズレ”
前回の記事では指導方法としての問題を書いた。
今回はその続編として、現場環境そのものが変わったことで、旧来の育成法が通用しなくなっている点を掘り下げた。
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失敗できない
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余裕がない
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記録が残る
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判断の自由がない
この時代に「気を利かせろ」「見て覚えろ」は無理がある。
必要なのは、
気を利かせられる現場構造
見て覚えられる仕組み
だ。
新人は悪くない。
環境が変わっただけだ。
現場は、それに合わせて育て方を変えるだけでいい。

