
■ はじめに
「適正飼育」という言葉は本来、動物に使うものだ。
しかし現場マネジメントにおいて、この概念は意外と役に立つ。
先日記事のnote.版では、現場の人間は獣のように警戒心が強いと書いた。
今回はその逆で、作業者はむしろ飼われている側に近いという話をする。
急にペット扱いかよ、と思うかもしれない。
だが、これはバカにしているのではなく
「現場の反応には動物的な法則が働いている」という前提を理解するための比喩である。
結論から言うと、
管理職は“適正飼育”の視点を持たないと、現場は安定しない。
■ 作業者の反応は「理屈」より「本能」に近い
現場は、暑さ・騒音・危険物・緊張などのストレスが常にある。
この環境では、人は思考よりも反射・本能で動きやすい。
だから、
・怒鳴られる
・威圧される
・雑に扱われる
こういった刺激は、
“この上司は危険”という学習を作業者の脳に刻む。
ここに理屈は通用しない。
感情ではなく条件反射だ。
動物飼育でも、過去に危害を加えた飼い主には近づかない。
現場の作業者も同じで、
不快・恐怖体験は「危険人物」のラベルとして固定される。
■ 適正飼育とは、管理職側が負担を背負うこと
動物飼育の基本は、
・環境整備
・ストレスの低減
・距離感の維持
・過剰な刺激を与えない
・習性(個体差)の理解
この5点で成り立つ。
現場マネジメントも完全にこれと一致する。
では何が「適正飼育」なのか、現場用に翻訳すると次の通り。
■ ①「環境」が整っていないのに根性論を言わない
・暑い
・うるさい
・危ない
・作業量が過剰
こうした環境で「気合い入れろ」は無意味。
動物飼育でいえば、炎天下のアスファルトで犬に走れと言っているのと同じだ。
管理職の仕事は、
“頑張らせること”ではなく“頑張れる環境を作ること”。
■ ② 個体差を理解する
作業者それぞれ、
・習熟度
・集中の持続力
・慎重/大胆の性質
・緊張のしやすさ
・説明の入り方
これらは全員違う。
にも関わらず、
「Aに言ったらできたからBにも同じ言い方で行けるだろ」
という発想をする管理職が多い。
それは “習性無視の飼育” と同じ。
管理職は、誰がどの説明なら理解しやすいか観察する立場である。
■ ③ 距離の詰め方を間違えない
動物は、怯えている時に距離を詰められると逃げる。
作業者も同じで、
ミス直後やトラブル対応中に深く入り込みすぎると逆効果になる。
焦らせず、
短い指示で落ち着かせることが必要だ。
適正飼育の基本は、
近づくより、落ち着くのを待つ である。
■ ④ 信頼は“積み上げ式”
動物は、飼い主の一貫性を見て信頼を決める。
・声のトーンが安定している
・急に怒らない
・説明が毎回同じ
・態度にブレがない
・褒めてくれる
これが繰り返されて、初めて「この人は安全」と判断する。
現場もまったく同じで、
信頼は一発逆転ではなく積立式。
少しずつ毎日積み上げていく必要がある。
10回優しくても、1回怒鳴れば崩れる。
これは理不尽ではなく、生存本能によるものだ。
■ ⑤ 部下の態度がすぐ変わらなくても問題ではない
管理職が変化すると、
「俺が変わったんだから周りも早く変わってくれ」
と期待する人がいる。
だが、これは適正飼育では逆効果だ。
動物は、
「今日だけ優しい」
「最近は静か」
という短期的変化では信用しない。
現場の作業者も、
・まず安全確認
・その後様子見
・それが終わってやっと安心
という順番で進む。
つまり、
管理職の変化スピードより、作業者の安心スピードのほうが遅いのが普通。
焦らなくていい。
■ まとめ
現場は「人間同士のやりとり」より、
「動物的な反応の積み重ね」で成り立っている部分が大きい。
だから管理職には、
“適正飼育”の視点が必要になる。
・環境を整える
・個体差を理解する
・距離感に気をつける
・一貫した態度を積み上げる
これができる管理職は、
作業者が自然と安心し、ミスが減り、現場が落ち着く。
先日のnote.では“獣”として書いたが、
今日は“ペット”として扱っている。
比喩は違っても結論は同じで、
現場の人間は“安心”をベースに動く。
それを作るのが管理職の仕事である。


