
新人が気を利かせられない——それは「能力が低い」からではなく、そもそも気を利かせる“基準”が伝わっていないからだ。現場でよく聞く「見て覚えろ」「気を利かせろ」という言葉は、実は“指導していない側の便利な逃げ道”になりやすい。本記事では、新人が気を利かせられない理由と、先輩がまず示すべき見本・言語化・段取りのポイントを整理する。
現場で働いていると、やたらと「新人は気が効かん」「見て覚えろや」という声を耳にする。
けど、その同じ人たちに「しゃーなくね?気が利く見本がどこにおるん?」と聞くと、急に黙ることが多い。
実際、わし自身も新人の頃、「気を利かせて動け」と言われ続けたが、何をどう気を利かせればいいのか誰も教えてくれなかった。「段取りってこう組むんよ」と説明してくれた人は一人もいなかった。
じゃけえ、できんのは当たり前なんよ。
ここで思ったのが、「気を利かせる」って、実は高度な“段取り力+観察力+経験値”の総合技なんじゃないか、ということ。なら新人が最初からできるわけない。
そもそもあいつらは「気が利くやつ」じゃなくて「自分に取って都合よく動くやつ」を求めている訳だが…。
1. 「気を利かせろ」の見本が存在しない現場
現場でよく聞く「気を利かせろ」。
しかし、そもそも 気を利かせる見本を誰も見せられていない のが問題の核心だ。
多くの先輩は、
「普通こうするじゃろ」
「見て察せや」
「俺がこれしよったらお前もこう動けや」
と自分の感覚で説明する。
でも新人からすれば、
普通も察しも、基準が分からない。
お前の動きも知らないのである。
気を利かせるというのは、実は
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状況の先読み…これから起こること、作業についてのイメージ、作業者の習性
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優先度の判断…複数の作業や準備でどれが大事か
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裏側の段取りの把握…必要な工具が準備してあるか、関係部署への連絡、誰がどこに行くか
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相手の欲しい情報の理解…必要な情報の提示
といった 複合スキルの組み合わせ だ。
つまり本来、スキルとして教えなきゃいけないもの。
にも関わらず多くの現場では、
「気を利かせる」は性格や才能のせいにされてしまう。
これでは新人にとっては“無茶ぶり”以外の何物でもない。
以下複合スキルの例

今日は解体作業して解体物を持って行って貰わないといけないけど、先輩もう出ていったな…。
いつも通りとりあえず点検作業か。まぁ、昼からでも余裕あるしええか。
あの人最悪でも12時には絶対メシ食いに戻ってくるからとりあえず書類整理しよう。
・・・今日16時に○○運輸さん来るんよな?上司様先週連絡した言うとったが大丈夫か?
前も大幅に時間ずれて怒られよったが…。いや、もうすぐ上司様おらんなるし一応先に確認しておこ。
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やっぱり違うやんけ。確かに今日来る連絡しよったが○○運輸さんに確認したら14時着やん。
昼一解体始めてもギリギリやんけ。(一応少し遅れそうとは伝えておいた)
とりあえずすぐに作業できるようにバールとハンマー準備しとこ。書類整理は空き時間で頑張る。
先輩さん帰ってきたら14時から解体物取りにくることと工具準備しとること伝えなきゃ。
上司先輩がこんな感じで、この例のように気を利かせて無かったら怒られる現場もあるらしい。
2. 「見て覚えろ」には“前提条件”が必要
「見て覚えろ」という言葉も、
本来は正しい場面で使えば効果的だ。
ただし条件がある。
✔ ① 見るべきポイントが分かっている
✔ ② 先輩が“魅せるように”動いている
✔ ③ 理由や背景を理解している
この3つが揃って初めて、
“見て覚える”が機能する。
しかし現場の多くはこうだ。
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手順を隠すように早口で説明
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慣れすぎて動きが速すぎる
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何を大事にしているか言語化しない
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「見て覚えろ」で丸投げ
これでは新人は
“どこを見ればいいか分からない状態” で見せられている。
育てるのが上手い先輩は違う。
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動作をゆっくり、誇張しながら見せる
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「今これを確認してる」と実況する
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「ここだけ絶対に見ておけ」というポイントを明確化
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見た後に質問の時間を作る
「魅せる指導」が自然とできている。
3. 新人が“気が利かない”と言われる理由
新人が気が利かないのは、能力不足ではない。
むしろ多くの場合は環境の問題だ。
ポイントは以下の3つ。
✔ ① 背景情報を共有されていない
なぜこの工程が重要なのか。
どこで詰まりやすいのか。
どんなトラブルが起きやすいのか。
ここが分からなければ、
気の利かせようがない。
✔ ② 優先順位を先輩が言語化していない
「先にこれやっといて」が曖昧だと、
新人は判断材料を持てない。
何故この手順が今必要なのか説明する必要がある。
✔ ③ 成功例を見せられていない
結局、
“魅せ方が分からない先輩が多い”
というところに行きつく。
これでは新人が成長しないのも当然だ。
4. 先輩がやるべき「魅せる指導」のポイント
① 見てほしいポイントを先に伝える
「今の工程は“詰まり防止”が目的だから、ここだけ見ておいて」
これだけで新人の吸収力は跳ね上がる。
② わざとゆっくり、誇張して見せる
見本は“魅せる”。
無駄に省エネすると伝わらない。
③ 理由の言語化
「なんでこの順番なんですか?」
という質問に答えられることが重要。
④ 背景・文脈をセットで教える
気を利かせる力は背景が分かってこそ育つ。
⑤ 新人に“考えさせる時間”を作る
教えっぱなしでは伸びない。
「どう思う?」を入れるだけで理解が深まる。
5. まとめ:見本を見せる力が、現場を変える
「気を利かせろ」「見て覚えろ」は悪い言葉じゃない。
ただし、本来もっと丁寧な“前段階”が必要だ。
新人が気が利かないのではない。
見本が見せられていないだけ。
そして、
見るポイントを教えていないだけ。
先輩が“魅せる指導”を身につければ、現場は必ず変わる。


